機能性スルホン化ポリマーとは?

スルホン酸基(-SO3H)で置換された化合物(スルホン化化合物)は、古くから合成中間体・界面活性剤等に使用されてきました。 近年は固体高分子形燃料電池用電解質膜、有機EL用電荷輸送材料、さらには水処理用分離膜などの新たな機能性材料として注目されています。 弊社は創業当初から得意とするスルホン化技術を生かし、芳香族ポリマーへの新規スルホン化法を開発しました。

スルホン化ポリエーテルスルホン【S-PES】

ポリエーテルスルホン(PES)をスルホン化したスルホン化ポリエーテルスルホン(S-PES)を開発しました。 代表構造式・品質一例をご紹介します。

■S-PESの代表構造式

S-PESの代表構造式

■S-PESの品質一例

項目 品質の一例
外観淡褐色粉末
スルホン酸基導入率約30%
水分≤ 3%
重量平均分子量Mw130,000
開発ステージパイロット実績有

新規スルホン化法の特徴

従来のスルホン化技術は、芳香族ポリマーをスルホン化すると、反応が進むにつれてポリマーの分子量が低下するという問題がありました。 弊社は、分子量を低下させることなく高いスルホン酸基導入率を実現することに成功しました。(特許第5824734号)

■S-PESの新製法及び従来法合成例

  新製法 従来法-1 従来法-2 原料 目標
スルホン酸基導入率 30% 9% 30% - 30%
重量平均分子量Mw 130,000 100,000 20,000 100,000 100,000~150,000

機能性スルホン化ポリマーの用途展開として、水処理膜及びレドックス・フロー電池用電解質膜の性能をご紹介します。

水処理膜の性能評価

分離膜は浄水処理、排水処理等の水処理分野に限らず、食品産業分野など様々な方面で利用されています。
PESは、優れた耐熱性・耐薬品性・高い機械的特性により、ウイルスやタンパク質・細菌等をろ過する膜として市販されています。
しかしPES は、ある程度疎水性であるために、原水中に含まれる有機物などが疎水性の膜表面や細孔内に付着・堆積する“ファウリング”が生じ、膜差圧が上昇することで、 膜の薬品洗浄や交換頻度の増加が問題となっています。
上記の理由から、膜表面の親水性を高めるため、表面グラフト化等のアプローチが広く研究されています。
そこで、PESにS-PESをブレンドした膜を作製し水処理膜としての性能を評価しました。

■PES及びS-PES/PESブレンド中空糸膜

PES(M22-0)及びS-PES/PESブレンド(M20-10:S-PES/PESブレンド比:1/9)中空糸膜の断面及び表面のSEM観察結果

図:PES(M22-0)及びS-PES/PESブレンド(M20-10:S-PES/PESブレンド比:1/9)中空糸膜の断面及び表面のSEM観察結果

■水中空気接触角

膜表面の親水性を評価するため、水中空気接触角を測定しました。S-PES/PES膜はPES膜に比べ、空気接触角が大きくなり、膜の親水性が強くなりました。

PES膜及び、S-PES/PESブレンド膜 (S-PES/PESブレンド比:1/9)の水中空気接触角 図:PES膜及び、S-PES/PESブレンド膜 (S-PES/PESブレンド比:1/9)の水中空気接触角

■S-PES/PESブレンド中空糸膜モジュール

中空糸膜モジュール(全体) 全体

中空糸膜モジュール(透過液出口の写真) 透過液出口の写真

■中空糸膜モジュールの耐ファウリング性試験

クロスフローろ過法により、モデルファウラントとして、アルギン酸、フミン酸、ウシ血清アルブミン(BSA)水溶液を中空糸膜モジュールに供給しました。その結果、S-PES/PESブレンド膜はPES膜に比べ透水量の減少率が小さく、膜が汚染されにくくなりました。

アルギン酸 100 ppm S-PESの代表構造式

フミン酸 100 ppm S-PESの代表構造式

BSA 100 ppm S-PESの代表構造式

■(MD22-0):PES中空糸膜モジュール
(MD20-10):S-PES/PES中空糸膜モジュール

図:モデルファウラントを使用した中空糸膜モジュールの耐ファウリング性試験結果(Stage 1, サイクル毎に逆洗30秒、通気10秒; Stage 2, 逆洗1分、通気30秒;Stage 3, 1,000 ppm次亜塩素酸ナトリウム, 1 mM水酸化ナトリウム水溶液に3日間浸漬)

【引用】
 H. Matsuyama et al., Ind. Eng. Chem. Res., 2017, 56, 11302–11311
 H. Matsuyama et al., Ind. Eng. Chem. Res., 2018, 57, 4430−4441

レドックス・フロー電池用電解質膜の性能評価

バナジウム系レドックス電池は充放電サイクル耐性や安全性に優れるため、大型の二次電池として期待されています。
現在一般に使用されている電解質膜材料は、パーフルオロカーボンスルホン酸ポリマーですが、非常に高価であることが広範囲での実用化を妨げていると考えられます。
このことから芳香族ポリマーにスルホン酸基を導入した炭化水素系材料が検討されています。

弊社は、S-PESの緻密膜を作製し、レドックス・フロー電池用電解質膜としての性能を評価しました。
結果、膜耐久性及びクロスオーバー試験(プロトン選択性)で良好な結果が得られました。

表:S-PES膜、パーフルオロカーボン膜、 S-PEEK膜の膜耐久性及びクロスオーバー試験結果

  膜耐久性(溶液中のV4+濃度増加率)※1 クロスオーバー(V4+の拡散係数)※2
S-PES膜 1.0 1.1 x 10-7 cm2/min
パーフルオロカーボン膜(他社品) 1.0 4.8 x 10-7 cm2/min
S-PEEK膜 3.7 1.1 x 10-6 cm2/min

※1: 0.2 M の5 価バナジウムイオン(V5+)を含む5M硫酸水溶液中、40℃で2ヵ月間浸漬・振とうし、 紫外可視吸収スペクトルにて相対比較。ブランクを1.0 とした。 ※2:片側にV4+, 3 M硫酸水溶液、反対側に3 M 硫酸水溶液を流通させ、V4+ の濃度変化を追跡

【引用】
 国立研究開発法人産業技術総合研究所 評価結果